涙を堪えて、震えて そこまでしても、守ろうとするもの そんな瞳を真正面から見るのは どうしていいのかわからない、苦しみと共に 言葉を飲み込んで、やまない The Choice キラ・ヤマトが生きていた その事実は震えるほどの衝撃 本当に生きている、ということが素直に嬉しい キラの新しい力"フリーダム"を見上げ、ムウ・ラ・フラガは目を細めた 普段は軽口を叩く彼は、まぎれもない戦士だ "フリーダム"を見上げる瞳は、戦士のそれと変わらない この機体には「触れない」というのが約束 だから、見上げることはあっても、決して触れることはない Nジャマーキャンセラーが搭載された機体 興味がないわけではない 「ムウさん?」 突然と後ろから声をかけられ、ムウは瞬きをして振り返る 声から、誰なのかはわかっていた この、"フリーダム"のパイロット、キラ・ヤマト 「何だ、触れてないぜ」 声をかけられたものの、それ以上何も言わないキラに自分から話しかける おどけて肩を竦めてみせると、キラはそっと笑った 「わかっています」 その瞳が柔らかに揺れる キラはムウの横まで歩いて"フリーダム"を見上げた 「力だけでも…」 ムウの横から静かに声が響く 誰もいない空間には、その小さな声でもとても大きく耳に残る 「思いだけでも駄目だって…」 そのままキラは一歩だけ"フリーダム"に近づいた その、自分に比べ明らかに小さな肩 必要だと、力が必要だと言われ、戦火に身を沈めたキラ 自分達のことで手一杯になってしまい、少年の気持ちを利用した 罪悪感もあるし、それと同じほどの不安感もある 生きていた少年に、何と声をかけたものか ムウは軽く息をはいて、腰に手をあてた 「思いは手に入れたのか?」 ムウの言葉にキラが振り返った その瞳は、軽く目を見開かれている 「何でそこまで驚くんだよ」と突っ込みたいのを堪え ムウはキラに向って笑ってみせる 「力は手に入れたんだろ?」 確認するように"フリーダム"に視線を送る その先を見つめていたキラは、ゆっくりと頷いた 「思いも手に入れたのか?」 「………はい」 その躊躇した返事 それに対しムウは何も言わなかった 躊躇したときのキラの瞳は 依然とは明らかに違う、決意の色が見て取れた ムウは真正面からキラを見つめた 「いいのか?」 そのムウの口調は、明らかに普段とは違う 真剣に、相手に問うための質問だった キラを自分と同じ、同等の人物とみなしての質問 「はい」 その視線を真っ直ぐに受け止め、キラははっきりと頷く その言葉を聞いて、ムウは頷いて踵を返した 「ムウさんっ」 途端、呼び止められる声 ムウは足を止めて振り返った 「ご心配おかけして、すみませんでした」 律儀にもペコリと頭を下げるキラ 何だか、妙に笑いたくなってしまうではないか 「今度はねぇぞ」 そう言ってひらひらと手を振りながら歩き出す 後ろでキラがほっと、表情を緩めているのがわかっていた 角を曲がったところで、ムウは苦笑しながら髪をかきあげた 「ったく、いい目してるよ」 さきほど、自分を真っ直ぐに見据えた瞳 何も恐がることなく、真正面から見上げられたのは久しぶりだ ムウは口元をほころばせながら、歩く 戦争は確かに辛く、恐く、逃げ出したくもなり、目を覆いたい それでも、戻ってくるのはどうしてなのだろうか、と 何度も泣いて、何度も後悔して、答えが出ない気持ちを抑えて… あんなにも、腫らし、揺らし、歪んだ瞳を殺していた少年 何が彼を強くしたのだろう 支え、導いて、助けてくれたものは何だろうか 早く戦争が終わればいい そう望む心が消えないように 願いが願いだけで終わらないように fin. |