俺だって男なんだからな そんな無防備な笑顔みせるなよ おい、そんなにくっつくなって 言いたいことは山ほどあるのに どうして本人目の前にしたら言えなくなるんだろう INSTINCT〜アスラン〜 「ここがアスランの部屋だ。あるものは自由に使え」 そう言ってカガリは部屋から出ていった マーナが呼んでる、とか言って焦っていたような気がする マーナというのはカガリの世話係のような存在 どっしりとしていて、姫様思いで、母親のような雰囲気の人物 きっとカガリも彼女に母親を見ていると思う そんなことを一人考えながら、アスランは一通り部屋を見渡す 「一人で何しろっていうんだよ……」 そう、こんな広々としていても、今のアスランには空虚感が漂うだけだ むしろ、ザフトが与えてくれていた小さな部屋の方が落ち着く いつ戻ってくるかも知れないカガリの事を思いながら待つのか? はたまた、彼女への妄想を展開しながらベッドに横になるのか? アスランは、ため息をつきながら、ボスンッとベッドに横たわる 「っっ!?」 途端、アスランの瞳が大きく見開いた と、思えば、勢いよく上体を起こし、じっとベッドを見つめている 「この……匂いは……?」 ふわりとベッドから立ちこめた仄かな香り 記憶の片隅に残る匂い 脳で覚えてなくとも、体が覚えているようだ 「カ……ガリ……??」 そう、そこから舞い上がった香りはいつかカガリを抱きしめた時の香りだった でも、なぜ…… ふと、アスランは部屋中を見渡した 窓にはレースの白いカーテン 小さなテーブルには綺麗に生けてある花 そして、アスランが今腰かけているベッドは………… 「まさか……カガリの……?」 ふと、アスランの思考が理性を飛ばしかける カガリがここにいなくとも、感じるカガリの匂い よく見渡せば、そこは男性の部屋にしては少々ドレッサーなアンティークが置いてある アスランは無意識にベッドを手でさする カガリがここで…………? 考えた途端、若い少年の体には少なからずとも変化がやってくる 「っっ!!っ………シャワー、浴びるか………」 自分の黒い渦を洗い流そう 自分は同胞たちを裏切った身 欲などに流されてはいけない そう、アスランは今ザフトから亡命しているのだ 気をゆるませている場合ではない が、否応なしに迫りくる若い「男性」の反応がアスランの理性を狂わしてゆく シャワーから上がってからも、どことなく落ち着かず結局はベッドに腰をかける 鼻をかすめる仄かな香りが気に入っていた それが、誰の物でもなくカガリのものだから 目をつぶれば彼女がそこにいるようで、とても安らかな気持ちになれる そんな時だった コンコンッと扉がノックされるのが聞こえてきた 同時に掛けられる声は、今しがた脳裏に思い描いていたそれと同じ声 「アスラン、私だ。入るぞ?」 「っ……、あぁ」 寝そべっていた体を起こし、アスランは慌てて返事を返す 「大丈夫か?」 「え?」 突然問われた言葉に、アスランは目を丸くする 様子を窺うような、瞳 それは暖かく、アスランの心をいつも包み込む 「お前、ここに来てからあまり元気がないだろ」 スタスタとアスランの側に置いてある椅子に腰かけ、カガリは言う だがアスランはその言葉に、自覚がない、と言ったように首を傾げた 「そう…かな。」 「そうだよっ」 「……そうか…」 元気がない……そう言われて、確かにそうかもしれないとアスラン自身も思う いろいろなことを一気に決めすぎて、自分でも分からないうちに決断してしまっているような気がする そして、その度にカガリが心に割って入ってきて、アスランを掻き乱す それは、言い方向なのかもしれない けれど……アスランの中で何かが崩れ掛けようとしているのだ 「ほらっ、アスラン!」 「えっ」 急にカガリがアスランの肩をガツッと掴んで揺らした 体に力が入っていなかったアスランの上体は、ぐわんぐわんと揺れる 「悩み事があるなら私に言えよっ」 すぐ間近にカガリの大きな瞳が迫ってきた そんなに顔を近づけられると……どういう顔をしていいかわからなくなる 「っや……でも…」 俺自身、何が自分を苦しめているのかはっきりわからないのに… そう、はっきりしていない ザフトから亡命してきたことか? 父親が殺されたことか? カガリを守っていくと誓った自分にか? それとも他の……何かが………? 「お前は私の護衛だろっ!?護衛がそんなんでどうするんだよっっ」 未だ、呆けた顔を見せるアスランに喝を入れるようにカガリは言った 本当に、彼女は「男らしい」 きっと口にしたら、それこそ目くじらをたてて怒りそうだが… それでも…アスランの心にはそれが優しく浸透していって暖かい なんでもまっすぐ自分を見てくれていて、アスラン自身気付いていない部分を指摘してくる 「お前がそんなんだと……っ私が安心できないんだっ」 「っカガリ…」 「なんでか…わからないけど…。」 心配してくれているのが、目に見えて分かる 彼女は本当にわかりやすいから 隠し事が下手で、なんでも顔に出てしまう カガリの困惑した姿さえも微笑ましくて、たまらない 「キラと……お前、似てるのに」 急に何を言い出すのか そう思ったのもつかの間 アスランの心臓は一気に鼓動を増すことになる 「似てる……のにっっなんで違うんだ?」 "違う"……何が……? 顔色を窺おうにも、カガリの表情は前髪によって隠れていた 困惑しているようなカガリの声 アスランの肩をぎゅっと握って、何かを思い詰めているのだろうか…… 「お前が苦しそうにしてると、私も苦しい……」 「っっ」 「アスランが笑ったら私も楽しくなるし、アスランが辛かったら私も胸が痛むんだっ」 この言葉の真意はなんだろう アスランは、呆然と考えてみる 目の前のカガリは、口をぐっと噛みしめて、表情を歪めて、必死で何かを堪えているように見えた それは……アスランの為に…… 「カガリ……。」 「キラにだってそうなのに………っ。……どう…して……」 自分でも答えが出ていなくて困惑しているのだろう カガリの迷いは、瞳から溢れる滴が物語っていた どうしようもない気持ちのやり場 今まで経験したことのない、胸の痛み アスランにだけ アスランへしかない そっと上げるカガリの瞳に、アスランの姿が映し出される 夕焼けのように暖かい橙の瞳 その瞳を持つ少女が、アスランの中の何かを壊していく…… 「カガリっっ」 「えっ!?ちょっっわっっ」 アスランはカガリの腰をひょいと持ち上げて、ベッドの上に倒し込む ぽかんとしたカガリの瞳がアスランを見上げ、アスランはそれをまっすぐと受け止めた 「俺の悩みの種を解決してくれるんだろ?」 ぽつりと漏れたその言葉に、カガリは凍り付いたように体を強ばらせた まるで何かの危険を察知したように いつもと何かが違うのだ キスをする前のアスランはいつも穏やかで、冷静なのに ……それ…なのに…… 「ちょっ、ちょちょちょっっアスラッッ……っンっ」 無理矢理押しつける唇 カガリの必死の抵抗ももろともせずに、アスランは重力を見方につけた 加速する気持ちを止められず、アスランは深く深くカガリを求めた もがくカガリを無視し、走り出した欲情が暴走を始める カガリの唇を開き、中で彼女の舌をからめとる 逃げまどう彼女の舌を執拗に追いかけ、まるでねじ伏せるように彼女をダメにしていった 次第にカガリの体から力が抜け、アスランへの抵抗がなくなる それをいいことに、アスランの手はカガリの服の中へと進入していった 「っっ」 そっと、壊れ物を扱うような優しい手付きにびくりとカガリのからだが跳ねる 思わず声が漏れそうになるのを必死に堪えているのが、ありありとわかる そんな顔をされると、ますますアスランの中の黒い渦が色濃くなっていくことも知らずに アスランの手は、カガリの胸の膨らみへ伸びてゆく 暖かなそこは、初めて感じる柔らかさ めまいを感じるほどのその感触に、アスランは戸惑いながらも求めていった 「っアスランッ!!」 焦るカガリの声もすでにアスランには聞こえない アスランが押さえていないカガリの片手が、彼の頭や肩をぽかぽかと叩く 「やっ……っアスっっ、やぁぁっっ」 部屋に響くカガリの声は半分泣き声が混じっていた どう抵抗してもかなわぬ相手 男と女の力の差 今まではこんなことはなかったのに、というカガリの悔しさが涙となって溢れてきた 「っアっっ」 カガリの突起が、アスランの愛撫に過剰に反応する 一度感じてしまったそこは、さらに敏感な性感帯となっていった それを本能で察したのだろうか アスランは尚も集中的にそこを攻める 周りが見えなくなって、カガリの悲痛の声さえもその耳には届かない状態 彼は溺れたのだ 彼女の中の「女性」に…… 「っアスランっ!!お前っいい加減にしろよっっ!!!!」 その力はどこから絞り出したものなのか 急にカガリはがむしゃらに抵抗を始めた 「いいかげんに……しろぉ………」 それでもアスランの力にはかなわない そんなもどかしさが、彼女の堪忍袋の尾をスッパリと切ってしまった 「お前っっ嫌いだっっ!!」 「っっ」 叫ばれた言葉にアスランは、はっとする まるで今まで何かに取り憑かれていましたとでもいうような、あっけにとられたその顔 「っカ……カガリ?」 「嫌いだ……っお前なんかっっ」 叫んで、カガリは毛布をがむしゃらにアスランに投げつけた カガリ自身は、乱れた服をそのままにし、まるで自分を守るように体を小さくする ベッドの上で、縮こまり、自分の肩をぎゅっと抱きしめた まるで、恐ろしい獣から身を守っているような、そんな仕草 被った毛布から頭をやっと出したアスランが見たものは、カガリの傷ついた姿 「……っあ………、カガ……」 声をかけることすら、アスランにはできなかった 小さく縮こまったカガリの体中からのメッセージが明らかに「拒絶」を意味していたのだ 傷つけた…… 自分の勝手な欲望で 自分が男で、彼女は女なのだと痛切に感じてしまったその瞬間 アスランは、時間を巻き戻せる力を持っていればと、ひどく自分を責めたのだった fin. 〔戯言〕 や〜、これ難しかったです。というか、面倒でした。 先にカガリバージョンを書いていたのでそっちのセリフと合わせるのが大変で。 しかも、アスランバージョンとか言ってもあまり変化ないですし。 それでも一生懸命変化つけようと頑張ったつもりなんですよ。 心情描写とかカガリバージョンとはちょっと違うものにしています。 自分は変えたつもりでも読者の方が気付かない程度…かもしれませんが。涙 まぁ、これはこれでいっか。みたいな?汗。 |