そんな君が愛しくて…




ちゅん、ちゅん
ちゅん、ちゅん

日の光がカーテンの隙間から差し込み、まだスヤスヤと寝息をたてている人々の目覚めを促す。


「ぅ…」


小鳥のさえずりが目覚まし時計の音よりも先に彼女を眠りから呼び起こした。
今何時…、と首をめぐらせ目覚まし時計に目をやると、あと10分程で目覚まし時計の設定時刻だった。
ゴロンと再び枕に頭を預け、目覚まし時計が鳴るまでそっと目を閉じておこうと布団をかぶる。
両足を摺り寄せ、体の熱が逃げないようにとキュッと身体を縮込ませる。


「っっ!!」


が、思わず彼女は息を呑んだ。
下半身から何か液状のものが出てきている。
股を擦り合わせてみると、すこしぬるりとした感触が伝わってくる。
月の障りはつい1週間前に終わった。
よって、それではない。
と、なると………
思考をめぐらせると、すぐに思い当たる昨晩の出来事。
ボッと火がついたように、彼女の頬は赤く染まる。


こいつのせいだっっ!!!!!


彼女は隣で熟睡している男の顔をジトリと睨む。
結婚して3ヶ月。
彼の性欲は一向に衰えず、月の障りのときを除き毎晩毎晩、彼女は夫の性欲の餌食となっている。
断れど断れど、彼の「お願い」に負けてしまう悔しさ。
惚れた弱みとはなんとも恐ろしい。


リリリリリリリリリリリ


カチンッと目覚まし時計のスイッチを押して音を消すと、隣に寝ていた夫がもぞっと身体を動かした。
彼はとても寝起きが悪い。
それは結婚前から知っていたこと。
ちょっとやそっとじゃ起きやしない。
目覚ましの音なんて子守唄程度だろう。
彼女は夫の寝顔を一瞥すると、小さなため息をついて身体を起こした。
身体に力を入れるとまだわずかに「昨日の残り」が中からあふれ出してくる。


「っなんだってこんな……」


ぶつぶつ文句をたれながら布団をめくって、ベッドから降りようとすると、スッと彼女の手首が掴まれた。


「っっ」


驚いて振り返ると、まだ眠そうな翡翠色の瞳があった。


「なんだよアスラン、起きたのか?」
「ん……。」


やはり寝ぼけた反応が返ってくる。


「私朝ごはんの支度するんだから…手、離せよ。」


少し小声で話すのは彼女なりの配慮だろう。
そんな彼女の声が心地いいのか、彼はそっと瞳を閉じて幸せそうに頬を緩めている。


「もうちょっと……」
「っぇ…わっっ」


寝ぼけているはずなのに、夫の力は強かった。
ぐいっと腕を布団の中に引き込むと、それに伴い当然彼女の体はボスンッとベッドの中へとしずんでしまう。
乱れた毛布を妻の肩までかけてやると、満足そうに彼は妻の髪の毛を梳いた。


「っなんなんだよまったく…。私は朝食の支度するんだぞっ」
「俺も手伝うから……、もうちょっと一緒に……。」


やはりうつろな瞳と声で言う。
それはなんとも艶っぽく、男であることがもったいないような色気を帯びたものだった。
何度聞いても聞きなれない。
毎晩耳元でわざとらしく囁くその声。
もう、何度その声で正気を失ったことか。


「ホントに手伝うんだぞ?お前遅刻しちゃうんだからな。わかってるのか?」


ぷくっと頬を膨らませながらも、彼女は大人しく彼の胸元に顔を埋めた。
かすかに聞こえる心臓の音が、心地よい。
うっかり眠りについてしまわぬように、彼女は綺麗に眠る夫の顔を見つめていた。


「……なに?」
「っえっ!?」


ぱちっといきなり開いた瞳が、琥珀色の瞳を的確に捕らえた。
驚いた彼女の肩がびくっと跳ねる。


「お前っ起きて…?」
「さっきから起きてるよ俺。」


寝てただろっ、という反論はここでしても永遠に言い合いが続いてしまうだろうと、喉の奥に引っ込めた。


「起きてるならっ、もう出るぞっ。朝ごはん作らなきゃ。」


今度は躊躇なく布団をひっぺがして、彼女はベッドから勢いよく出る。


「カガリ。」


優しく甘い声で呼ばれ、薄いシーツを纏っただけの妻―――カガリは不貞腐れたような顔で振り返った。


「なんだよっ。」


すると、くすっと笑みを浮かべた夫―――アスランもベッドから出て、カガリの元へと足を進めた。
アスランは、寝癖が少しついたカガリの金色の髪の毛をそっと梳いてやると、耳元にそっと唇を近づけた。


「おはようのキスは?」
「っっ」


ぞくぞくぞくっと背筋を駆け抜ける衝動に、カガリは眩暈を感じると同時に、恥ずかしさと合間って怒りが湧き上がってきた。


「寝言は寝て言えっっ!!!!」


ダダダッと逃げるようにアスランの手中からすり抜けていくカガリの耳は、この上なく赤かった。


「っとにカガリは可愛いなぁ」


アスランはクククッと思わずこぼれる笑みを堪えるように口元に手を添える。
走って脱衣所に行った妻は、きっと今頃顔が真っ赤になっている自分の姿を見て自己嫌悪に陥っていることだろう。
それを思い浮かべると、どうしてもイジワルがしたくなって、アスランは颯爽と脱衣所へと向かうのだった。









妻・カガリの奇声にも似た怒りと恥ずかしさの入り混じった叫びがご近所さんの眠りを妨げるのはあと数秒後。








fin.


〔戯言〕

突発的に書きたくなった新婚さん話。
新婚さんはお盛んです。笑
というわけで、変な表現も入ってますが気にしないでください。
新婚さんなんてこんなもんですよ。たぶん…
だって、堂々と子作りに励めるし…イコール男としてはまぁ…いいんじゃないですか?
私は女なのでよくわかりませんけどね。あはは。

ホントに書きたかったのはほのぼのとした朝の様子です。
あぁ、カガリが可愛すぎてイジメっ子になるアスラン素敵だなぁ。笑。